田んぼ1反はCO₂を何トン吸収する?
田んぼ1反の稲は、143日間でどれだけのCO₂を吸収するのか?
― お米を育てる田んぼの、もう一つの働き ―
毎年、春になると始まる田植え。
まだ小さな苗が並ぶ田んぼは、夏になると一面の緑に変わり、秋には黄金色の稲穂が実ります。
私たちにとって田んぼは、お米を育てる場所です。
しかし、その成長過程で稲が大気中の二酸化炭素(CO₂)を取り込んでいることを、どれくらい意識しているでしょうか。
今回は、田んぼ1反を例に、科学的な研究論文を参考にしながら、稲のCO₂吸収について考えてみます。
田植えから稲刈りまで、約143日間の成長
今回想定するのは、約1,000㎡の田んぼです。
田植えを5月20日、稲刈りを10月10日と仮定すると、その間は143日間。田植え当日も含めると144日間になります。
もちろん、品種や地域、気候によって栽培期間は異なります。
5月に植えた小さな苗は、6月から7月にかけて葉や茎を増やし、夏には光合成を活発に行います。
やがて穂が出て、稲穂に実が詰まり、秋の収穫を迎えます。
その成長には、太陽の光、水、そして大気中のCO₂が欠かせません。

稲はどれだけCO₂を取り込んでいるのか?
2023年に発表された中国東部の水田研究では、2015年から2022年のうち6栽培年について、光合成による炭素の取り込み量が調べられました。
研究で用いられているのは、GPP(総一次生産量)という指標です。
これは植物が光合成によって取り込んだ炭素の総量を表すもので、植物自身の呼吸による消費を差し引く前の値です。
その研究結果を日本の田んぼ1反の面積に換算すると、栽培期間中のCO₂総吸収量は約3.1〜5.5トン、6栽培年の平均では約4.2トンとなります。
小さな苗から始まる稲作ですが、光合成によるCO₂の取り込みは、想像以上に大きな規模で行われているのです。
ただし、この数字は海外の研究事例を面積換算したものであり、日本の田んぼ1反で143日間に必ず吸収される量を示したものではありません。

稲は成長する時期によって、CO₂の吸収量が違う
稲の光合成は、栽培期間中ずっと一定ではありません。
苗が小さい時期は葉の量が少なく、成長とともに光合成が活発になります。
特に夏は葉が茂り、多くの光を受けることができます。
一方、稲が成熟するにつれて光合成能力は低下します。
茨城県の水田で行われた研究でも、7月下旬に水田全体の正味CO₂吸収が大きくなり、その後は次第に減少する様子が確認されています。
つまり田んぼは、季節の移り変わりに合わせて、CO₂の吸収活動も大きく変化しているのです。
ただし「吸収したCO₂=削減したCO₂」ではない
ここで、一つ大切なことがあります。
稲は光合成によってCO₂を吸収しますが、同時に呼吸もしています。
また、収穫された米が食べられたり、稲わらが分解されたりすると、取り込まれた炭素の一部は大気中に戻ります。
さらに、水を張った田んぼでは、土壌中の微生物の働きによってメタンという温室効果ガスが発生することも知られています。
つまり、稲が成長中に取り込んだCO₂の総量と、地球温暖化を抑える実質的な効果は、区別して考えなければなりません。
近年では、田んぼの水管理を工夫してメタンの排出量を減らす取り組みも進んでいます。
農業の環境価値を考えるうえでは、CO₂の吸収だけでなく、温室効果ガスの排出や土壌への炭素蓄積まで含めた視点が重要です。

田んぼは、お米を育てるだけの場所ではない
私たちは、田んぼを見るとき、つい収穫されるお米のことを考えます。
しかし、春から秋までの稲の成長を科学的に見てみると、その背後では大量の炭素が自然の循環の中を移動していることがわかります。
そして田んぼには、食料生産のほかにも、水を蓄える働きや生き物の生息場所を支える役割などがあります。
一面に広がる緑の田んぼ。
その景色は、単に美しい農村風景というだけではありません。
私たちが毎日食べているお米は、太陽の光、水、そして大気中のCO₂を使って育っています。
田んぼの役割を知ることは、食と環境、そして自然とのつながりを改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。
参考文献・資料
Zhuら(2023年)「The Linkage Between Methane Fluxes and Gross Primary Productivity at Diurnal and Seasonal Scales on a Rice Paddy Field in Eastern China」Journal of Geophysical Research: Biogeosciences. https://doi.org/10.1029/2023JG007632
Saitoら(2005年)「Seasonal variation of carbon dioxide exchange in rice paddy field in Japan」Agricultural and Forest Meteorology, 135, 93–109.
Xinら(2017年)「Modeling gross primary production of paddy rice cropland through analyses of data from CO₂ flux tower sites and MODIS images」Remote Sensing of Environment, 190, 42–55.
農林水産省「水稲栽培における中干し期間の延長」に関する資料、環境負荷低減対策関連資料。
※本記事のCO₂吸収量は、既存研究のGPPデータを面積換算した参考値です。特定の日本国内の水田の実測値や、温室効果ガスの実質削減量を表すものではありません。




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